きものギャラリー
紬の極み ― 数少なき名品たち
黒八丈(黒黄八丈)は、本場黄八丈の中でもとりわけ希少で特別な逸品です。
八丈島に自生する椎の樹皮で糸を染め、さらに鉄分を多く含む島の泥水で媒染することで、深みのある黒へと発色さ、火山島ならではの豊富な鉄分が樹皮に含まれるタンニンと反応し、独特の艶と奥行きを生み出します。
織りは「まるまなこ」と呼ばれる綾織りで、二重の菱形文様が特徴です。黒・黄・樺色を巧みに組み合わせ、まるまなこの地紋を織りなしています。
光の角度によって織り柄がさりげなく浮かび上がり、一見すると素朴な縞柄のように見えながらも、奥行きある豊かな表情を秘めています。
黒に染め上げる工程は特に手間がかかり、一度に染められる糸の量もごくわずかです。そのため黒100%の黄八丈は非常に少なく、「幻」とといわれることもあるほどです。
現在、黄八丈の草木染を担っているのは西條吉広さんとご子息のお二人のみ。限られた作り手によって受け継がれる黒八丈は、まさに出会えたら幸運ともいえる、貴重な逸品です。
越後上布は、繊細で軽やかな風合いを誇る最高級の麻織物です。雪国・越後ならではの「雪晒し」により、雪が溶けて蒸発する際に生まれる天然のオゾンが、製作過程で付いた汚れや糊を落とし、麻本来の糸目や柄をいっそう鮮明に浮かび上がらせます。
原料は植物の苧麻(ちょま)。茎の繊維を取り出し、爪で細く裂いて一本一本を丁寧に撚り合わせ、糸を績(う)みます。
一反分の糸を作るだけでも約8~10か月を要し、さらに織りの工程では一日7時間ほど織り続けてもわずか4センチほどしか進まないという、気の遠くなるような手仕事の積み重ねによって完成します。
江戸時代の最盛期には年間20万反を数えたと伝えられる越後上布ですが、現在の生産量はごくわずかとなり、膨大な時間と労力を要することから極めて希少な存在となっています。
それでもなお、昔ながらの工程をほとんど変えることなく守り続ける作り手たちの「つくり続ける」という強い意志によって、その伝統技法は今日まで大切に受け継がれています。
久留米絣は、糸の段階で染め分けを行う先染め織物のひとつです。木綿糸を麻で「括(くく)り」、藍で染めることで、縛った部分だけが白く残り、斑模様の絣糸が生まれます。異なる染め分けの糸を経糸(たていと)・緯糸(よこいと)に組み合わせて織り上げることで、多彩な文様が表現されます。織る際に糸がわずかにずれることで柄の輪郭にやわらかな滲みが生じ、これが久留米絣特有のかすれた風合いを生み出します。
その起源は、米穀商の娘であった13歳の少女・伝(のちの井上伝)が、着古した藍染めの布に白い斑点が浮かび上がっているのを見て、糸を染め分ける着想を得たことに始まると伝えられています。伝の生み出した織物は「御伝加寿利(おでんかすり)」と呼ばれ、評判を集めました。
やがて高級品として全国に広まり、最盛期には年間200~300万反を生産。しかし戦後、洋装化と近代化の影響を受けて生産量は減少し、現在では約7万反にとどまっています。かつて約1500軒あった織元も、今では二十数軒ほどとなりました。
それでもなお、藍と白が織りなす素朴で奥深い美しさは受け継がれ、久留米絣は日本を代表する木綿織物として、今も大切に守られています。
奄美大島産の本場大島紬には、正統な産地と伝統製法の証である「地球印」の証紙が付されており、図案作成から染色、織りに至るまで30以上もの工程と半年から一年にも及ぶ歳月をかけて丹念に生み出されます。
なかでも、奄美大島特有の泥田に含まれる豊富な鉄分ときめ細やかな泥の粒子を活かした泥染めによる深い黒は最大の魅力で、手紡ぎの本絹糸を奄美に自生するテーチ木(シャリンバイ)の煎汁液で染め、さらに鉄分を含む泥土で媒染するという伝統技法によって、奥行きあるこげ茶から格調高い黒へと発色させます
。優雅な光沢としなやかで軽やかな風合い、さらにシワになりにくい実用性も兼ね備えた大島紬は、緻密な染めと織りの技術によって完成される、日本が誇る絹織物の最高峰のひとつです。
鹿児島産の証である「旗印」。 その中でもひときわ希少価値が高いとされるのが白大島です。 白泥染めに用いられるのは、「カオリン」と呼ばれる粘土鉱物の微粒子。 糸にやわらかな艶としなやかさを与えながら、上品な乳白色へと染め上げます。深みある黒大島が主流を占める中、この清雅な白はまさに別格の存在です。 さらに、白大島はもともとの生産数自体が少なく、大島紬全体のわずか1~2割程度にとどまります。加えて、手織りで白大島を織り上げられる熟練職人も年々減少しており、現在ではその数はごく限られています。 素材の希少性、技術の希少性、生産数の希少性―― 三重の希少価値を併せ持つ白大島は、まさに“大島紬のレアもの”と呼ぶにふさわしい逸品です。
奄美大島で生産される最高級の大島紬ブランド都喜ヱ門の大島紬は、
豊かな自然と受け継がれてきた伝統技法に支えられ、丹念に織り上げられています。
本場大島紬の伝統を礎としながらも、新たな図柄や技法を追求。より忠実で豊かな表現を求めて絣や染色技法を独自に磨き上げ、時代を先取りする作品づくりに挑み続けてきました。非常に繊細な絣表現、多彩で美しい色彩、豪華絢爛にして緻密かつ精緻な仕上がりは、古典美術の趣を備えた最高峰ブランドならではの風格を放ちます。
反物には品質と格を示す「金ラベル」と「銀ラベル」の二種が設けられています。
なかでも金ラベルは、都喜ヱ門の中でも選び抜かれた最高級品の証。
絣の精度、図案の完成度、色調の深み——そのすべてにおいて厳しい基準を満たした特別な一反にのみ与えられる称号です。