羽ばたく美・伝統の意匠
鳥模様に込められた意味

日本では古来より、鳥は吉兆をもたらす特別な存在として尊ばれてきました。幸運・繁栄・長寿・魔除けを象徴し、着物の文様としても広く親しまれています。なかでも鶴や鳳凰は「めでたさ」を表す代表的な鳥で、婚礼衣装にも数多く用いられてきました。

日本神話や民間信仰では、鳥は神の使いや霊的な存在として登場します。 その神聖性から、儀式・祝いごとにふさわしい模様として用いられました。 日本の着物文化は、花・鳥・風・月が織りなす四季の移ろいを愛でる「花鳥風月」の美意識と深く結びついています。季節の鳥を描く文様は、自然が持つ儚い美しさをそのまま身にまとうかのような魅力があり、人々に豊かな情緒をもたらしてきました。
また、大空へ羽ばたく鳥の姿は、未来への希望や成長を象徴するものとして晴れの日の装いにふさわしく、今なお多くの方に選ばれ続けています。

鴛鴦(おしどり)・雀

鴛鴦(おしどり)は、現在でも「おしどり夫婦」という言葉が使われるほど、夫婦円満の象徴として広く知られている鳥です。常にオスとメスが仲睦まじく寄り添う姿から、円満な家庭、末永い契りへの願いが込められ、吉祥文様として古くから愛されてきました。 桃山時代にはすでに着物や帯の意匠として用いられ、以降、時代を超えて親しまれてきた鴛鴦文様は、現代においても祝いの場にふさわしい柄のひとつとされています。意匠表現においては、必ずしも二羽一対にこだわることなく、一羽で表されたり、複数羽を配した構成が取られることもあり、構図の自由度の高さも特徴です。こうした意味合いから、振袖や留袖をはじめとする礼装に多く用いられ、祝儀に欠かせない文様として位置づけられています。
また、特定の季節を限定しない文様であるため、鳥をモチーフとした意匠の中でも一年を通して着用できる点も魅力のひとつです。
「鴛鴦(おしどり)」の文様は、加賀友禅の人間国宝・羽田登喜男を代表する人気作品としても知られています。写実性と装飾性を兼ね備えた羽田登喜男ならではの表現によって、鴛鴦の柔らかな羽色や穏やかな佇まいが格調高く描かれ、身にまとう人に静かな華やぎと品格をもたらします。伝統文様の持つ吉祥性と、卓越した技の融合を感じさせる、まさに羽田作品の魅力が凝縮された意匠といえるでしょう。

雀は古くから「吉鳥(きっちょう)」とされ、日本人の暮らしの中で親しまれてきた縁起の良い鳥です。人里近くに群れて生息する習性から、一族繁栄・家門隆盛の象徴とされ、子孫が絶えず続くことへの願いが込められてきました。
また、雀は「厄をついばむ鳥」ともいわれ、災いや不運を遠ざける存在として信仰されてきました。民間信仰の中では、家の周りに雀が集まることは吉兆とされ、家内安全・無病息災をもたらす鳥として大切に扱われてきた歴史があります。
ふっくらとした丸みのある愛らしい姿は、見た目にも豊かさや温もりを感じさせ、五穀豊穣・生活の安定・富貴を表す意味合いも持っています。こうした理由から、雀は着物や帯、工芸品の文様としても好まれ、親しみやすさと縁起の良さを兼ね備えた意匠として用いられてきました。
意匠としては、竹や笹、稲穂などと組み合わせて描かれることが多く、自然との共生や生命の循環を表現する文様としても知られています。季節を限定しない文様であるため、日常着から礼装に至るまで幅広く用いられ、世代を問わず愛され続けている文様といえるでしょう。

孔雀・雉

日本神話や民間信仰では、鳥は神の使いや霊的な存在として登場します。 その神聖性から、儀式・祝いごとにふさわしい模様として用いられました。
羽のグラデーションや流れるような曲線美をもつ鳥の姿は、染めや刺繍の技法と非常に相性がよく、着物の図案として美術的に大きく発展してきました。なかでも孔雀は富貴の象徴、幸福をもたらす瑞鳥とされ、古くから世界各地で意匠化されてきた存在です。日本へは奈良時代に伝わり、着物文様として広く親しまれるようになったのは江戸時代といわれています。

一方、雉子(きじ)は繁殖力の強さから子孫繁栄を象徴し、孔雀とともに華やかな吉祥文様として用いられてきました。美しい羽色をまとい、母性愛が深い鳥としても知られる雉子は、春の草花とともに描かれることが多いものの、季節を問わず縁起の良い存在とされています。
戦後、雉が日本の国鳥に定められた最大の理由は「日本固有種」であることでした。外国へ渡らず、常に日本の風土の中で生きてきた鳥であることから、「日本人にとって最も身近な鳥の一つ」として親しまれてきたのです。人々の暮らしに寄り添い、生命力や豊かさを象徴する鳥として、雉子は古くから大切にされてきました。

鳳凰

鳳凰(ほうおう)は、古来中国より語り継がれてきた伝説上の鳥で、平和で幸福な世が実現したときにのみ現れる瑞鳥とされています。
鳳凰は「鳳(雄)」と「凰(雌)」が対となる存在で、華麗で優美な姿、長く流れる尾羽、気品あふれる佇まいは、権威と美の象徴として数多くの美術工芸に表現されてきました。
この鳳凰の思想は日本にも伝えられ、飛鳥時代にはすでに文様や装飾として用いられるようになります。仏教美術や宮廷文化と結びつき、寺院建築、仏具、調度品などに盛んに取り入れられました。以後、鳳凰は日本においても天下泰平・国家安寧・五穀豊穣を象徴する存在として受け継がれていきます。
現在でも、鳳凰文様は国宝や重要文化財をはじめとする貴重な文化財に数多く見られ、格式の高い意匠として位置づけられています。着物や帯の文様としては、主に礼装や婚礼衣装に用いられ、人生の節目や慶びの場にふさわしい格調と華やぎを添えます。
鳳凰文様は、単なる装飾にとどまらず、平和と繁栄への願いを託した、日本人の精神性を映し出す象徴的な意匠といえるでしょう。

桐竹鳳凰紋

桐竹鳳凰紋(きりたけほうおうもん)は、桐と竹を背景に鳳凰を配した、非常に格式の高い吉祥文様です。 桐は天皇家を象徴し、竹は節操・長寿、鳳凰は平和と繁栄を表します。これらの吉祥性を重ね合わせた意匠は、晴れの装いにふさわしい格調の高さを備えています。 文様の歴史と由来 この文様は、中国で瑞鳥として尊ばれた鳳凰の意匠が、日本で桐や竹と結びつくことで成立しました。正倉院裂や宮廷の調度品にも見られ、古くから権威と雅やかさを象徴する柄として受け継がれてきました。 その背景には、中国の古い伝説があります。古代の皇帝が天を祀ると、竹の実をくわえた鳳凰が桐の木に舞い降りたとされ、「鳳凰が高い岡で声高らかに鳴き、梧桐(ごどう)が朝日のもとで生い茂る」という瑞兆の情景が語り継がれています。 この物語は、桐竹鳳凰紋が“平和が訪れる象徴”として尊ばれる理由にもつながっています。

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